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2007年11月5日月曜日

チュパグルイ神話/転げ坂に巣食う者



8070字
ある意味これはBL短編なのかもしれないw

恐怖とは認識されない水面下に拡がる非日常の現れである。
とは私が学生時代に読んだ本の一説の受け売りだが、
その言葉を真に理解するには、やはり時間による熟成が必要であった。
人生の半ばに到達した今こそ、私はその熟成が必要であったことを証明する為に、私に起こった忌わしい過去を記さねばならないし、他の人にも知ってもらいたいという思いで、この手記をここに残す。
 1998年当時、私は高校に在学する生徒であった。
私が当初望んだ、第一希望の高校へは成績が十分ではなく、しかたなく不思議と人気が高まっていた男子高へ進んだのであったが、
悔恨の情が残っていたのか、2年を経た高校の生活は、私に何ももたらさない、空虚に満ちたものだった。
その当時、私は、ある先生から薦められたブルバトリムの著書である「自我の変遷」という本を恥読しており、
その内容が極めて異常で、且つ厭世的であった為にダイレクトにその影響を受けていた経緯もある。
「人生はつまらないものだ」というシニシズムな思想を私は保持しており、そんな希望の欠けた生徒の周りに信頼できる友人等できる訳も無い。
私は独りではなかったが、その「知人」のような存在として学友を見ており、私自身から積極的に会話を交わす、ということもある時までは無かった。
 そう、忘れもしない!その「ある時」!
私は1998年7月15日になんとも…忌わしい!!
思い出すだけでも血の気が失せるような出来事に遭遇してしまったのだ!
その当時の私が、なんと防衛本能というものに欠けた存在であったかということは、ヘドが出る思いだ!
私はこの出来…あああ!人とはなんと恐ろしいモノだろうか!
純粋だった私をあの瞳は……
ずっと見てい…
いや…話を進めよう…。
 私は迫り来る夏休みというものを大変待ち遠しく、心持ちもどこかそわそわしたものだった。
繰り返す日常に辟易していた私は、自我を新たな世界に導く旅を企画し、それを毎夜空想していたからである。
少年から青年へと移行するこの時期は、男の子ならば誰でも一度は思うことだろう。
知らない、新たな世界に身を置いてみたいと。
そして、…ああ!その15日に出会ってしまったのだ!
夕闇が迫る中、自転車で帰宅を急いでいた私は、校内でもよく噂されていた、「転げ坂」と呼ばれる近道を選んだ。
その近道とは、急峻の森林が周囲の視界を遮断している国道から逸れ、ガードレールの合間に出来た、
竹やぶに不思議と現れた狭い急な坂道で、雑草で荒れ果て、僅かに土が見える程度である。
私は十二分に気を付けたつもりだった。
が、その暗闇に満ちた急角度の坂ではその注意など、何の助けにもならなかった。
案の定、私は転げ坂をその名の通りに豪快に転げ落ちると、よく撓(しな)る竹で頭を強く打って、しばらくの間気絶してしまった。
そして徐々に意識が回復し、目を開くと私の視界に何かが映った。
 鬱蒼として、高々と伸びる竹林の一点透視図の景色をまず私は知覚した。
その中で、ぼやけたコントラストの、この自然には似つかわしい異物に徐々にピントが合ってくる。
私の目の前に現れたその何かとは、今思えば人であった。しかし!
それは2つの球と1つの棒状の構成物体である。
それが私の頭上で唸(うな)っているのだ!!
「ブルンブルン…ブルルーン!」
と空に向って、その構成物体の保持者が吠えている。
私はその戦慄する光景をしばらく(といっても、ほんの数秒であろうが)見て、飛び起きた!
目の前には、私と同じ制服を来た男の子が目を閉じ、祈るようにして、その構成物体を上下に、時に回転をして、念じているのだ!
「ブルン…ボプダゲデヤフテミタニ……」
私はその光景に絶句していると、彼は突然目を見開いて、
「ああ!柳田先輩!こんばんわ!」
と、快活な声で私に挨拶をしたのだ!
「お前は…一体、何をやってるんだ!」
そう私が声を狼狽えながら発すると、彼はその構成物体をしまいこんで、
「いや、よかった。回復してほんと良かった」
「お前は頭がおかしいんじゃないのか!?」
私は躊躇せずに声を放ったのだが、彼は極めて冷静な佇まいで、眼下に拡がる景色を眺めながら、
「そんな…僕は…救ったんですよ。先輩を」
と、私ではなく誰か、第三者的なものに対するようにして呟いた。
「私の命を救った…?」
私は確かに記憶が所々欠落していたとはいえ、竹に頭をぶつけたのは覚えている。
しかし、これは軽い脳しんとうであっただろうし、そんな重大な、まさか…私が死んでいたとでも言っているのだろうか!?
私はその死という言葉に思惑が到達したことに少し恐怖を感じて、話題を逸らした。
「君は私のことを先輩と呼んでいるが…?」
「そうです!柳田先輩、僕は1年の小野です。
先輩のことは入学した時から知ってました。
図書館で出会ったことを覚えて無いですか?」
そう問われて私は、沈思した。
この小野とかいう後輩?…図書館に居ただろうか…?
確かに私は時折、休み時間は図書館で黙々と本を読んでいたが、その時に私に声を掛ける者などいなかった。
「すまないが…」
と、私が言葉を濁すと、
「そうですか…でも!まぁいいんです!
 とりあえず病院に行ってはどうですか!?」
と、彼は明るく答えたのだった。
 私はベコベコに凹んだカゴの自転車を引きずって病院へ向った。
小野君も同行してくれた。
もう空のグラデーションは赤と黒とが混ざりあい、周囲は暗闇に閉ざされつつあった。
ここは大変田舎なのもあって、街灯も車の通りも皆無に近く、病院もここからは数キロ歩かねばならない。
これらの状況は、私の不安な気持ちを増殖させる十二分な触媒である。
「先輩血が出てます。少しだけど」
彼がそう言ったので、私が頭に触れてみると、ふむ、血が付着した。
「いや、そんなに深くは無いみたいだ。かすり傷だろう」
「でも頭を打ってますからね、交通事故でもよくむち打ちで辛いとかあるじゃないですか。
とりあえず行きましょうよ」
「小野君はどこに住んでるんだい?どうやら自転車通学では無いようだが」
「僕ですか?近くですよ。学校の近くです」
「そうなのか‥「転げ坂」の近くなのかい?」
「いや、学校の近くです」
学校の近く‥、私は彼がこの言葉を2度使ったことに少し違和感を感じた。
学校の近くといっても、周囲に民家等無い。
山の中腹に私が通う学校があり、それゆえ「転げ坂」という近道があるのだ。
「転げ坂」の近くならば、民家がある。
これは何かおかしい。
私は続いて先程の‥彼の異常な行動に付いて問うてみた。
「君の‥その私が倒れた時にやっていたのは一体何だ?
何か祈祷のような、念仏のような‥」
「ああ、あれは‥」
その時、ぼつぼつと雨が降って来た。
月明かりも見えぬほどの黒雲が、いつのまにか空を支配していた。
「雨が降って来ましたね。
ちょっと近くに神社があるので、そこへ行きましょう」
と、彼は走っていった。
私は見事に話題を逸らされた。
いや、逸らされたとはいえ、彼は神社へ向ったのだ。
そこでまた問えばよい。
 登校の途中で、ちらと見る程度であった神社への入り口である鳥居への階段を目前にして、私は立ち尽くした。
この神社は子供の頃、遊んだ記憶がある。
今も変わってはいないはずだ。
階段を登れば、徐々に右前方の視界に見事な落葉樹が映り始め、
その奥には無縁墓石が点在し、、ふむ、まぁ普通の神社である。
私は自転車を置いて登り始めた。
エンマコオロギの鳴き声が、深と静まった夕闇の間から囁き、無気味な空間を演出している。
その囁きは、恐怖を降り注ごうとする霊樹の序曲のように。
しかし!
私は霊などは信じない。
そんなものは心理を利用した金稼ぎの手段だ。
しかしながら、やはりこの街の信仰の場であり、延々と祈って来た人々が集った場所でもあり、見守ってくれる有り難い場所だとは思っている。
私は一応の畏敬の念を持って、神社の鳥居を潜(くぐ)ると、彼が建物の軒下で待っていた。
彼はじっと私を見つめていた。
 私は先程、「霊」という言葉を使った。
再びしつこく言うが、昨今の所謂、見えないものを利用した霊能者番組という物にうんざりとしている現状があったからである。
私が愛読して居たブルバトリムの本の影響もあるだろうが、それは如実に私の現実世界に対する見方を変え、宗教、霊、等といった物への漠然とした信仰は懐疑的となり、瓦解した。
私は淡い畏怖はしているが、他人には普通の人のように繕うだけで、
私の本当の心の内は「どうせ金と絡めてくるのだろう!」という、猜疑心の固まりである。
全く、あのxxxの馬鹿どもに私のxxの毛を煎じて飲ませてやりたい気分だ!
いつもいつも!
のらりくらりと銭を貪る訳の解らん精神の乞食共がっ!!

おっと…すまない。
私はこういう風に思考が悪循環する癖があるのだ。
話を進めよう。
 雨はやがてしとしとと降り、すぐに止む気配だった。
小野君はトタンの屋根のこれまた風雪に耐え、錆びの肌を露出した建物内<といっても、彼の後ろには10体ほどの小さな祠がある>で私をじっと見つめていた。
なんということか?彼の先ほどの天使の如き快活な知性を感じさせる笑顔は、上から肌色のペンキで一度塗り固め、そしてその上から鉛筆で雑に描いたように、のっぺりと無気味なグラデーションと化しているのだ。
彼はどうしたというのだ?
私が心配して、軒下にいる小野君に、
「どうしたんだね!君は私をずっと見つめているが!?」
そう叫ぶと、彼は
「アーーーーーーー」
「クルクル!クレゥゾォォオオオオ!」
「ハハッ!ワカッテオルマスッ!!もトろんデすともっ!」
「アアん!?!!アのファルサッカー様が!?
エエ!もトろんデすとも!」

彼はさもこれが日常であるかのように話しているのだ!
しかも、先ほどのペンキは見事に溶けて、どろんとした表情である!
私は背筋の筋肉がガチガチに硬直するような緊張で、脳は驚きと恐怖に包まれた。
「ああ、小野君…一体どうした…のかね?」
と、私が近寄って、ぼそりと力無く問うと、小野君はまるで、先程の出来事が記憶からすっぱりとカットされたようにして、
「え!?柳田先輩こそ、僕をじっと見つめて何をしてるんですか?怖いなぁ…」
と、再び天使のような笑顔で問い返されたのである。
「雨も止みましたよ!ちょっと暗いけど、急いで病院へ行きましょう」
小野君は、さっさと私をかわすと、鳥居を潜って先を歩いた。
なんともはや!これはどういうことであろうか?
私がじっと見つめていて…怖いだと!?
そんなことがある訳が無い。
怖いのは彼であるのだ!彼の異常な言動が恐ろしいのである!
「いや、ちょっと待ってくれ。
君がさっき叫んでたのは一体何だね?」
と、私は彼に「怖い」と言われた事に少々苛立って問い直した。
小野君は神社への階段を下りながら、
「僕はずっと黙ってましたけど…」
と今度は乙女の、さも私が別れ話を切り出した時のような悲しい顔をするのだ!
「黙っていた…!?君は何か…ファルサッカーが何とかと言ってたぞ?」
私は所詮人の子である。
彼を余り哀しませないように、少しばかり穏やかに聞いた。
「ファルサー?なんでしょう?」
ダメだ。彼は完全に覚えて無いようだ。
これが所謂憑依現象というものなのだろうか?
いや!私は断じて認めない。そんなものはあり得ない。
誰にでもあるような共通的な、訓示的な物をあの霊能者と自負するきゃつらは述べるだけだからだ!
ああ、なんとも!奴らの胸糞悪い銭ゲバ守銭奴の餓鬼共が…、
おっと…また…すまない。
しかし!小野君の先程の事は、全く普通ではない。
憑依されたとしてもだ。
あの…思い出すだけでも無気味なあの言葉は!
どう考えても、どこか別の世界のことを話しているかのようだ!
それは天国、地獄、霊等と言ったものではなく、もっと異質な世界であるかのような印象だ!
 私はもうこの時点で大変疲れ果て、病院には行かずに帰りたくなった。
確かに頭の傷は気になるのであるが、それは後からでもいいと思い始めた。
「小野君、悪いが私はもう引き返そうかと思うんだが…」
私が疲労困ぱい気味に言うと、彼は
「具合が悪いのですか?それは良くない!絶対病院へ行かなければなりません!
何故ならば、一見大丈夫のようにして、次の日に死んでいたりする事例が多くあるのです!
自転車に乗って下さいな!僕が押していきましょう!」
小野君はベコべコになったカゴを荷物が入るように拡げ、そして私はサドルに乗って彼が押してくれた。
確かに彼の言う通りである。
「もうあと1kmぐらいですよ!すぐです!」
私はその1kmという言葉に僅かながら希望を感じ、進んだ。
 汚れた空に流れる緑の川のような木々の景色が、さわさわと、頭上の視界を過ぎ去っていく。
自身の精神が衰弱した時に、人間ほど、何かに頼ろうとするものはない。
私がもし、独りで居たとするならば、
孤独の闇に突き落とされていたかもしれないと、しみじみと感じた。
小野君の存在はそこまで頼りがいのあるように思えて来たのだ。
確かに彼の異常な所。
何故「転げ坂」に居たのか。
謎の祈祷、念仏。
そして、あの異常な言動。
といった疑問はあるにせよ、彼は今私を献身的に介護してくれているのだ。
しかし!やはりそれらの疑問は気になる。
私は少しばかり誘導尋問的な会話をすることにした。
彼を知る必要がある。
「小野君、君は部活動はやっているのかい?」
「いいえ、僕は帰宅部ですよ」
「なるほど、私と一緒だな。
君はポケベルを持っているのかい?(当時は携帯ではなくポケベル、PHSが主流であった)」
「いいえ、それは興味がありません」
「ふむふむ、いや~それにしても、ここは無気味な感じのする通りだね。
まるで霊が、出てくるようだ!」
「僕は、先輩には悪いのですが、そんな物はいないと思います。
宗教も同じです。人の弱い心が生み出した、ただの面白いネタです。
金になるファンタジーですよ」
…なんと!彼の意見は尽く私の世界と合致しているではないか!
「おお…君は面白い感覚を持っているようだね!…ところで、
私をどこに連れていくつもりなのだ?」
そうだ、彼の疑問がもう一つ現在進行している。
この道は病院へ向う道ではない。
先程、その道への曲り角を過ぎ去ってしまったからだ!
「いえいえ、何を言ってるんですか?あそこに見えますよ?」
そんな馬鹿な!私の視界には鬱蒼とした林の中に病院と思しき建物が映っていたのだ!
「ちょっと待て、私の知っている限り、この街の病院は山を降りた先にあったのだが…」
「新しく作られたんですよ。さぁ到着しました」
私の意識は段々と朦朧としてきた。
いや、ここに病院があるわけがない。
しかし、目の前には新しい建物がある。
ああ、彼が手を引っ張っていく。
真っ暗の入り口には誰一人応対する者はいない。
断続的に意識が、眠る時のようにして途切れ途切れになっていくと、私はハッと目を覚ました。
私はベットに寝ており、周囲は白いカーテンで囲まれていた。
 ここまで回帰して見ると、まぁ夢特有の意味の解らぬ世界であろう。
こんなことは、夢の世界ならば誰にでもありえるし、誰でも記憶していないだけで、普通の話だ。
私はそう思うようにした。
何故ならば今、私は保健室にいるようなのだ。
誰かが倒れていた私を連れて来てくれたに違いない。
ほっとした私はとりあえず、家に帰ることにした。
小野君?ファルサッカー?全くイカれた世界だ。
 私は、シャッと白いカーテンを勢い良く開けると、
いきなりドバッと何かを掛けられた!
「うげぇあ!!…何だ…これは…」と、自分の体を見てみると、白色と僅かに赤色の混ざった液体で、腐ったような匂いがする!
「誰だこの野郎!」と普段冷静な私がキレて起き上がると、そこには折り重なり繋がった人体のような物が目の前にあるベッドに積まれている!
顔をシャツで拭きながら、周囲をよく見ようとすると、ドタドタと廊下を走り回る音がする。
私の目には、その白と赤の液体が入っており、痛く、そして視界がとにかく悪い。
僅かに片目を開け、ようやくベットから出ると、
折り重なったそれらは生きているようで、ぴくぴくと死に面した魚のように蠢(うごめ)いている。
そして、その繋がった部分から勢いよく先程の液体が飛び出している。
「クレゥァゾォオオオ!!ファルサッカー!!」
という叫び声が木霊する。
小野君のあの声とそっくりである!その声が近付いてくる!
私は、「あああ、夢の続きであって欲しい!」と願いつつ、恐怖の面持ちで何を行動すべきかと、しどろもどろしていると、机の上にノートが置いてあるのに気付いた。
どうやら日記のようである。
 ごめんなさい。チュパッ!私はこの のような れを
 モゴ、フモゴ、コロコロ、チゅパスルテしまっうのでっすが。
 コロチュパボブー。
…何だろうか…、これは何かの告白なのだろうか…と、戸惑っていると、窓の景色から、
こんな筋肉の付き方がする訳が無い!と思えるほどのグロテスクな巨大な物体が窓の上から現れ、それは!あの小野君が転げ坂で祈祷、念仏を唱えていた時の、あの構成物体が巨大化したそのものであった!
「ファルサッカー様!もトろんデすとも!」というあの声が近付いてくる!
「もトろんデすとも!つなぎゃリまラせぅ!!」
私はこれは挟み撃ちになる!
と身の危険を感じ、部屋から逃げ出した。
 私は学校の保健室に居たと思っていたのだが、それは少々異なっていた。
まったく新しい建物を匂わせる綺麗な廊下であったからだ。
私は、知らない所へ来てしまったという恐怖で右往左往していると、見覚えのある所を見つけた。
それは学校の離れにある図書館だ。明かりも着いている。
私は「ああ!助かった!」と、図書館に走り入ると、司書の先生が腰程の高さの本棚の向こうに居た。
「おお!柳田君!どうしたんだね!?」
と、先生が心配してくれた。
この時ほど、地獄に仏という言葉を身に染みて感じたことはない。
先生と私は、読書を共に愛する友人のような関係であり、
彼は私の事を良く知っている。
図書館2階から見える運動場で、私が授業を受けている時も、先生は私をにこやかに見守り、手を振ってくれるのだ。
よって、自分の考えている事を素直に話せる相手も先生である彼だけだった。
私が強く影響を受けたブルバトリムの本も彼が薦めてくれたのだ。
 私は説明するのに少し混乱したが、先生は私の衣服が大変濡れ、汚れていたのに気付いて、
「君は…溝でもハマったのかい!?ここに着替えがあるから着替えて来なさい」
と、私に与えてくれた。
「ああ!先生ありがとう!」
私は図書館のトイレに入ると、シャツを脱いだのであるが、べっとりと浸透しており、またズボンも汚れていた。
下着も濡れている。
私は全身脱ぐと、その着替えを履いてみたのだが、ぴちぴちの体操服で大変窮屈だった。
流石に私は他の着替えがないものかと、トイレの個室のドアを開けようとしたのだが、ふと上のほうが気になった。
私が上の空間を見てみると、そこには!あの小野君がなんとも興奮した顔をして覗き込んでいるではないか!
「うわぁああ!!」
私は個室を飛び出て、トイレから出ようとしたのであるが、
その時、入り口のドアが勝手に開いた。
私は、あっ!と仰天して尻餅をつき、仰ぎ見るとそこには、
ああ、あの!保健室の窓に現れた、あの構成物体が待ち構えていたのだ!
しかし、良く見てみるとそれは人である。
その人とは司書である春坂先生なのだ!
私はこの時点で、理解した。
「もちろんですとも!僕も、もちろんですとも!」
小野君はそう言って、構成物体を取り出した。
そして私の意識は薄らいでいった…
「ブルンブルン!!ハルサッカーサマ!」

そういうことなのだ。
小野君と私は確かに図書館で出会っている。
ここだ。そして、ずっと私を狙っていたのだ。
今思えば、私はあることを忘れていた。
「転げ坂」を見渡す事ができる新しい男子寮が出来ていたことを!
この出来事の主導者は、彼と先生と…ああ…。
「小野君、獲物を一緒に、どうだい?」
「もちろんですとも!」

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