google 検索

2007年11月7日水曜日

チュパグルイ神話/Two books of Destiny

6571字
ちょっとダークな感じ。

最近夢野久作にハマる。
青空文庫で読めます。
短編も多くあって読みやすい。
「あやかしの鼓」は伝統芸能に少々関わっている身であるので、面白かった。

*Two Books Of Destiny*
私は隠された真実という物が何処かで埋もれている、ということを広く知らしめたいという熱意に駆られている。
というのも、私がある古本屋で、とある本を見つけたからだった。
 私は歯牙ない全くの平凡な大学生で、このままでは何も素晴らしい思い出等残せないと毎夜何か、焦っていた。
何をするにも、友人とイベント等企画しても、
「ある未来に今の出来事は思い出と化すのか…」という、予測めいたものを考えると、途端に自分が冷めてしまうのがわかった。
そういった経緯から、私は人との交流をある一時期、断つことにした。
孤独から学ぶものも多い。
私はその孤独から、ふと本を読みたいという心境へ到った。
学術書でもなく、今流行りの云々ではない。
売れずに人の目に触れる事もなかったような本を、である。
過去の悩み、苦しんだ人々が残した思いの欠片が、
宗教における至言や、偉人の金言に埋もれ、残っているかも知れないと思ったからだ。
 私は夏休みに、市内でもかなり古い店へ入ると、そこには、
思い出すだけでも気持ちの悪い店番がいた。
おそらくその店主の娘か、嫁か、何れかであろう。
年は40を越えているように見えるが、おそらく30代ではなかろうか?
そして、店へ入った客に対しては、「いらっしゃいませ」等といった挨拶もなく、只、眺めているのであった。
そのことが更に、イメージを悪くし、大変容姿も醜く映る。
この時点で、誰しもが想像したくもないし、その店には絶対行きたくないと思うだろう。
私もそうである。
しかし、そこで私はその、とある本を見つけたのだ。
 私は、その気持ちの悪い店番が(本当に気持ち悪かったのだ!)視界に入らないようにして、本棚を見渡していると、やはり下らなく、馬鹿馬鹿しく思えるような代物ばかりで、少々失望した。
高名な著者の貴重な本というのもありはしたのだが、それは貧乏学生の私には手が出ないし、そもそもの目的は、自分にとっての所謂ダイヤモンドの原石探しである。
私はこの手の店に入ったのは初めてで、その空気を新鮮と感じるはずなのであるが、やはりその店番のせいで早く立ち去りたいと思うようになった。
膝の高さに堆(うずたか)く積まれた卑猥な本を一瞥(いちべつ)して帰ろうとすると、その中のあるビニールで包まれている本が私のジーンズに引っ掛かり、落してしまった。
私は、「ああ」とその本を手に取り元に戻すと、その気持ちの悪い店番が怪訝(けげん)な顔をするかと思いきや、淡々と私を見つめている。
「ああ!夢に出てきそうだ!やめてくれ!」
と、私は叫びたい気持ちで天を仰いだのだが、その目線の先に、その本があったのだ!
 私はその背表紙に、不思議な魅力を感じた。
その背表紙はホログラムになっていて、見る角度によって、変わるのだ。本の題名が!
私はまず、左下から眺めてみると、
  Book of Destiny LEFT WING
顔を傾けて、右下から眺めてみると、
  Book of Destiny RIGHT WING
と、見える。
日本語で言えば、運命の本、左翼、右翼。と言った所だろうか?
私はこの時点で、相当新しい本だと思って、少々残念な気持ちになったのだが、こんな本があるのは知らなかった。
早速中身を試し読みしてみようと開くと、中身は何も書かれて無かった。
おや?と私はページを捲るのだが、真っ白である。
著者も解らない、出版社もわからないのだ。
これはどういうことだろう?透かしなのだろうか?と光りにかざしてみるも何も見えない。
ふむ、と私は困り果ててしまった。
まぁ値段を見てみると405円で激安なので、早速購入を決めた。
店番に本を差し出した。
もちろん俯いてシャイなフリをしてである。
私はそそくさと店を出ると、宝物…
そうだ!正にダイヤモンドの原石を手に入れた気分で、飛んで家へ帰った。
 自宅に帰ると、早速その本を詳細に調べてみるのだが、何もわからなかった。
「おかしい、あの店番にボられたのだろうか?」
と、思いつつも、とりあえずその本を机の上に置いた。
私は講義のレポートを作成しなくてならなかったので、悶々と考えながら、途中まで終えると、食事をし、風呂に入った。
風呂の中で、再びあの本について考えてみた。
色々とアイデアが湧いてくる。
あぶり出し、鏡に映す、水に浸ける等、考えて早速風呂上がりに試してみようと思った。
私はその本を思い付くまま、アイデアを全て試してみたのだがダメだった。
火であぶる、水に浸ける事だけは出来なかった。流石にそれでは本を痛めてしまう。
疲れた私は、眠ることにした。まだまだ時間はあるのだ。
うとうととしていると、浅い眠りの中で、私は夢を見た。

ヴギャァーーーーゥ!!ブポルシ、シポグァーお前が手に入れやがったのか!?小野よ!
あん?読み方が解らないだと!!
運命の本は、読むものじゃねー。
伝達するんだよ!意味解るか?
この本を創りだせる奴は、世界を変えることが出来る!
小野よ、今まで幾多の人間が運命の本を手にしては、失敗した。
ある男は成功して世界を変えたが…それは近い時代では80年ほど前の出来事だ。
世界は変わったよな?
小野よ!お前は寝てる暇ねーぞ!さっさと起きて記憶しとけ!
このままだったら、19年だぞ!
あん!?何が19年だって?
だらだらとした人生。

「ぐうああああああっ!!!」
私は初めて自分の叫びで目を覚ました!
「なんだ今の夢…気持ち悪い夢だ…」
かなり精神にくる夢を、私は初めて見たのだった。
すぐさま、レポート用紙の余った紙に夢の出来事を箇条書きすると、すぐにまた横になったが、余りに脳が爽快な恐怖の状態で眠ることなど不可能だった。
暗闇の中、外の街灯のほのかな光りに照らされている、机の上の運命の本を手にして、私は目を閉じた。
そして、私はこの運命の本がどういうものであるかを、
理解したのだ。
 夢は「伝達」という言葉を私に与えた!
つまり!私が!この本を書かなければならないということだ!
おそらくこの運命の本とは、こうやって伝承されているのである。
石碑に残すわけでも無く、紙に残すわけでも無い。口伝でも無い。
「運命の本を書け」という、何者かから人が「影響」を受けて、創られるわけだ!
私の一連の行動!
私の性格
私の孤独
私の興味
私の出会い
そして夢
そうだ!先程の夢では約80年前にこの運命の本は現れたらしい!
現在は2007年であるから、1927年前後に現れたということか。
なんとも!その時代とは第一次世界大戦を経た血なまぐさい時代である!
しかし!私がその<運命の本に選ばれた筆>の可能性があるというだけで、私が書いても失敗するのかもしれない…。
あの夢での、何者か、は「成功」という言葉を使ったのだ。
ということは、失敗してきた人間が数多くいることになる。
それに、何か私の人生が残り19年だとも言っていた‥。
恐らく失敗すると、私は苦しみ続け‥そんな‥まさか…。
しかし、だらだらとしていてはいけないというのは分かる。
私は能動的な行動というものを、人生を振り返ってみると、全くやってこなかったように思う。
自然に落ちた、川に流れる葉のように、只、時代に流されているのではないだろうか。
そのままでは私は、私の意志等、なんら関係がない。
川に落ち、浮き、朽ち、溶けるだけだ。
しかし、その葉を船に変えたらどうなるだろうか?
流れに逆らうことも出来るだろう。
あの暖かい、丸みを帯びた石に止まり、笹鳴く小鳥の歌に酔いしれ、そこを楽園と呼んでもよいではないか。
しかしながら、よく冷静に考えると、
これは私が只、あの気持ちの悪い店番の嫌な印象が、
先程のような異様な夢を見させただけ、なのかもしれないのだ…。
とにかく私は書き始めることにした。
 私はまずBook Of Destiny LEFTを書き始めた
しかし、この運命という言葉…昔はどうか解らないが、今では、かなり怪しい言葉に成り果ててしまっている。
大抵は占いと組み合わさってである!
ネットで検索してみると、たまに酷いものを見るのだ!
昔も今も変わり無いのかもしれないが、これは単なる人の弱い心理を付いた詐欺のようなものだ!
どんどんと調べてみると、最終的には法外な金に結びつく!
君たちは騙されてはいけない!
猜疑心という名の盾を備え、一貫した自らを信ずる心の剣を備えるのだ。
洞察という素晴らしい鎧も秘めよ。
…おっと話しを戻そう。
 私はその本を(LEFTと略そう)左から読めるように書き始めたのだが、なんとも不思議な事が起こり始めた。
LEFTの中で、古代の神cpgrの記述をした。
cpgrは日本語で発音できないのでアルファベットで当ててある。
cpgrとは何だと思っている人がいるだろう。
夢に出てきた彼が名乗ったように思うのだ。
前記した「ブポルシ、シポグァ」という部分は、「私の名は、…」といった意味のように感じたからである。
ブポルシ、シポグァと書いてはいるものの、私はこのように聞こえたと思っているだけで、
本当は奇怪な、とても表現できない声だった。心を震わせる声とも言おうか…。
そして、以前と同じように、私の夢に再びそのcpgrは現れた。
夢に現れたcpgrは具体的な像というか、ぼやけた印象のような感じで、明確な姿は解らなかった。
が、それがcpgrであると感覚で解る。
……
シュプルプリウルボポルマエに、チからを与えようかと。
思ってる。どうする?

(その時の私は、意味も解らず頷いた)

ふゥン。
このチからが無いとお前が思ってるTwo Books Of Destinyは完成しない。
その力とは何んだと思う?

(私は、純粋に想像力だと答えた)

ブ-。繋がりなんだ。ずっと繋がってるの。人間って繋がってるのよ。
俺より頭が切れるヤツがそう創ったの。
そいつは、面白くて、捨てたらチカラを与えてくれるのよ。
だから俺もそうしてる。

(捨てるって何を?)

それはお前考えろよ。脳みそあるだろ。じゃ。
……
私は目を覚ました。
本を手にしてから、私はずっとこのcpgrの夢を見ている。他の夢は記憶に残らないようになった。
おそらく、夢で私をサポートしてくれているのだろう。
今回の夢は何か問答のような夢で、不思議な心持ちになった。
力とは繋がり…どういうことであろうか?
人間とは有象無象の全てと繋がっているということか…?
そして、捨てるとは何を?
私はそのまま考えてみて、捨てるのはやはり人間の特性である欲望だと帰結した。
私はその日から徐々に食事を制限して、禁欲生活に入った。
1週間目にはほとんど食事をせずに一日を過ごしたのだが、流石に意識が朦朧として、私はベットから起きるのが大変辛くなった。
そして再び夢にcpgrが現れた。

ブルヴペウルフまえさぁ、なんか宗教の知識あるだろ?
禁欲て、普通じゃん。
でも、まぁ頑張ったからな。ちょっとやるよ。

再び私は目を覚ましたのであるが、別段何か私に変わった所等なかった。
ふむ、普通の今までの自分である。
これは何やら只の夢で、それは神の啓示等ではなく、只の妄想のようなものかもしれないと、ふと、冷静に考えた。
「そうだ、馬鹿馬鹿しい夢だ」と思って夜の外の景色を窓越しに見ると、雲が月光に照らされてその形が大変綺麗だった。
その時、私の心がこれまでと違うことに気が付いた。
私のその「空が綺麗だ」と感じる私の感情が爆発しているのだ!
愕然と、膝を折って、
「本当に美しい!」と心から感じることが出来るのである!
私はこの感動を分かりやすい記号的表現である、涙等で表現したくない。
本当に心の内が只、震えるのだ!
ああ、この感覚を上手く表現できないのがもどかしい!
いつも見ていた風景が、美しく見えるのである!
それは私の心に変化がなければあり得ない事だ!
私と世界が繋がっている!
あの月光、自由なる雲、深遠な夜風、全て私は内包している!
美しさは私の中にもあるのだ!
cpgrが私に、この真の感情の片鱗を見せてくれたのがよく解る。
私の心のレンズは曇っていたのだろう。
それでは真実を映すことは出来ない。
私はその些細な夜の感動を心に留めたまま、一気にLEFTを書き終えた。
内容は残念ながら、ここで書く事は出来ない。
何故ならば、もしこれが完成を経るならば、「残って」しまうからだ。
私に起こった経緯で類推してもらいたい。
残るは右から読めるようにしてRIGHTを書くだけである。
しかし、何故このような左から読み、右から読むという構成の本なのだろうか?
人間の思想、左翼やら右翼を表現しているのか?
それとも、有と無を現す為だろうか…。
 私は少々気晴らしをしたいのもあって、
早速次の日、外の世界を観てみることにした。
私が<運命の本に選ばれた筆>ならば、書き終えていないとはいえ、何か私に変化があるはずである。
その変化とは昨夜の出来事から、
<真の世界を共有する心を手に入れる事>
だと予想した。
さぁ、どんな感動が待ち受けているのかと思いきや、はて、いつもの通りである。
コンクリートの道路も、電信柱も、人々も、夏空に拡がる積乱雲も
「ああ、ふむ」
と言った程の物で、そこには昨夜のような感動はない。
私が好きな動植物を観ても何もない。
cpgrは私に真の心を与えてくれたと思っていたのだが…。
 私はコンビニに立ち寄り、陳列されている本の表紙を淡々と眺めながら、少し落胆した。
「これはやはり只の夢で、私が少々狂っているのだ」
そう思わずには居られなかった。
少しでも気分を紛らわせようと、下に積まれている週間誌を手に取ろうしたときに、赤い光が見えた。
ガラス越しに見えたその赤い光は急速にその輝きを増す。
そして、爆発でも起きたような衝撃が私を襲った。
私はスローモーションの世界で咄嗟に逃げようとしたのだが、
気付いた時には、私はその赤の発光体と陳列棚に挟まれていた。
車が私に突っ込んできたのである!!
床に私の血が!流れている…!
私はその自身の状態を認識すると、頭からサ-ッと正に血の気が引いて手が震えた。
こんな状態になっているのに、私は
「cpgrは私にまた何かを与えようとしているのか!?」
と考えてしまったのだが、この想起は当たっていた。
失血により意識が朦朧としてくる。
救急車のサイレンが力細く響いて聞こえる。
店員の悲愴に塗れた顔が見える。

…そして、意識に暗闇が訪れると、私の命の電源が落ちた。
…私は、私は暗黒に溶けている。
この暗黒とは…何と心地よいのだ!
私は全てと繋がっているのだ。
しかし、瞬間的にその溶ける感覚は途切れる。ドクドクと。
行こうと思えば、私はその暗黒に行く事ができる。
そして、その溶けていき、繋がっていく私がやがて、どうなるか。
解る。
無だ。

生の素晴らしさは、只の一瞬の、感動かもしれない。
数々の感動があるだろう。だが、真に心揺さぶる感動とは、わからない。
数々の苦しみがあるだろう。だが、それは感動する心の肥やしだ。
糞でも役に立つものなのだ。
フラットな地面に花が咲く。
それよりも谷に咲く花のほうが、人目にも付かないし、それを見つけた時は君に何かを与えるだろう?
私達に光りを捕らえる目がなければ、この世界は暗黒なのだ。
私達は刹那的な光の世界の一瞬を、私達の時間で観賞してるだけだ。
私達が還る所は、ここなのだ…。

「オウフヴィフエフヴルフおお、お前、捨てたのか」
「こうしたのは俺の仕業じゃないぞ。そんなチからは無い」
「この光りの世界はそういうもんなんだ。死なないと思ってしまうのは、特性なんだよ。人間はそう念うの」
(やはり現れたか…cpgr、私は書かなければならないのだが)
「うむ、わかってる。でも俺はそのチからは無い」
「運が良ければ、大丈夫だろ」
「光りの世界の奴らが、さいころ振ってるよ、コロコロ」
「…おお、あ~~~…」
私は夜空に溶けてゆく
かつて眺めた夜の世界で、私は未来を展望した。
素晴らしい光輝く未来を。
誰もが願う希望の世界を。
しかし、結局還るところはこの暗黒なのだ。
この世という地獄に苛まれた人間を救う、一瞬と永遠の闇。
光りの翼を手に入れ、そして今、
暗闇の翼を手に入れようとしている。
全ては、暗黒の空へ舞う為に。
私は…<選ばれた筆>であっただろうか!?
半分白紙の本であるが、私は書き終えたのだ!

0 件のコメント:

コメントを投稿